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「小さな頃は、未遂も含めて誘拐なんて日常茶飯事。その他にもストーカー、痴漢……あらゆる企業施設からの勧誘。たまに変なのも混ざってたわね」
思い返せば、次から次へと思い出される数々の事件の記憶に、響は呆れを通り越して笑いが込み上げる。
「演技するようになってからはなってからで、かつあげ、脅迫、いじめ……そうやってしょっちゅう何かしらに絡まれてるじゃない」
すらすらと述べ、彼女は笑みをより一層深くする。唇を吊り上げ、楽しげに目を細めたそれは、確実に面白がっている顔だ。ただし、瞳には幾ばくかの哀れみが込められている。
その全てが鈴斗の神経を逆撫でる。機嫌は下降する一方だ。思い当たる節が多すぎて否定できないことが、更に腹立たしい。
鈴斗は苦々しい思いで歯噛みしながら、歪んだ表情で響を睨み付けた。
そんなことには目もくれず、響は再び口を開く。
「あんたは素だろうと演技しようと、どっちにしろ面倒なことが起きるんだから」
「トラブルメーカーってやつだな」
彼女の言葉に続いて、またもやいつの間にか復活していたらしい鐘が、快活に笑った。
姉弟二人ともに、兄のいきなりの登場にはもうつっこまずに、放っておく。
そんなことよりも、彼の放った言葉の方が、鈴斗には聞き捨てならなかった。
「うっせぇな!トラブルメーカーなのはお前らだよ!!」
「おう、そうだな!よく言われる!」
「それに何か問題でも?」
怒りを顕に怒鳴る弟の剣幕など全く気にせずに、兄はニカッと明るく笑い、姉はむしろふんぞりかえって微笑んだ。
くそっ……開き直りやがって……っ!
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