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それをまったく気にすることなく響が自然に話を続ける。
「あんたって頭はすこぶる良いのに残念よね―。解ってるくせに現実逃避というか、無駄な抵抗というか」
ほっとけ。というか、お前らには言われたくない。その言葉、倍返しで打ち返してやるよ。
そう思うも口には出せず、鈴斗は視線のみを向けて小さく舌を打った。
「ま、好きに頑張りなさいな。でも顔隠すためとはいえ、そのビン底眼鏡とボサ髪はないと思うわ。うざったい」
弟の舌打ちに微かに眉を動かすも、触れることなく流した響が、呆れた笑みで指をさす。
「いいんだよ。これが一番顔見えないんだから」
一番自然に顔隠せるから楽なんだよ。
本来は艶やかなはずのその髪を、顔を隠すように片手で押さえて、鈴斗は僅かに唇を尖らせる。
「はいはい」
強情な弟に呆れた彼女は肩をすくめ、深い溜め息をついてから、そういえば、と口を開いた。
「さっきあんた、いつもはシメたりしないって言ってたけど。その場ではお金渡して殴られて終わりってだけで、その後ばれないように影で色々と仕返ししてるでしょ」
あんた何も言わないけど分かってるのよ、と笑う響に、鈴斗もニッと笑い返す。
俺に喧嘩売ったんだ、当たり前だろ。あんなカス共に“ふり”でもただで殴られるなんてまっぴらだね。
俺に絡む奴らの運と頭が悪い。あいにく、やられたら殺りかえすってのが持論なんでね。
合わさる視線でそう語りかけてからもう一度、鈴斗は“弱々しく”微笑んだ。
「僕にはそんなことできないよ」
「まったく…、本当、それでこそ私の弟よね、鈴斗」
一つ溜め息をついてから誇らしげに笑う響は、心底嬉しそうだった。
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