プロローグ

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威勢だけは無駄にいい奴ってのは、どこにでもいる。 "彼"は眼前の光景を眺めながら、改めて心底そう実感していた。 「おら、さっさと金出せや」 「聞いてんのか?てめえ。早くしろ!!」 (そう、ちょうどこいつらみたいな救いようのない馬鹿。) 朝の通学路。 あからさまに狩られる側の“弱者”だと分かる、地味で根暗そうなおどおどとした気弱な男子生徒と、それを標的に“かつあげ”なんて愚行行為に及ぶ柄の悪い男二人。 たくさんの学生が往来する日常的な風景にイレギュラーな、しかし実際にはさほど珍しくはない、何処にでもあり得る光景である。 そしてこういう時、ヒーローみたいに助ける人物が現れる……なんていうのはドラマか漫画の世界だけで、現実では助けを呼ぶ奴さえ居らず、みんながみんな“見て見ぬふり”である。残念ながら“触らぬ神に祟りなし”、面倒は避けるのが現代の常識だ。 (まったく世知辛い世の中だな。こういう馬鹿は一度痛い目を見せないと解らないってのに。) 普段は正義と親切を語る大人でさえも、そそくさと通りすぎるだけなのだから、どいつもこいつも口先だけの偽善者ばかりだ。 "彼"は心の内で深くため息を吐き、世をまかり通る言葉だけの"正義"や"親切"というものを儚んだ。 『そんなにいうならお前が助けてやればいいだろう』って? そりゃ無理だね。 『結局お前もそいつを見捨ててるじゃないか』? 違う違う。俺は助けに入らないんじゃなくて“入れない”の。 だって、 俺がその絡まれてる“気弱な男子生徒”だもん。
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