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「鈴、いってきますのほっぺにチューは?」
「黙れ役たたず。んなもん一度もしたこたねぇよ」
「鈴斗、“いってきます”は?」
頬を差し出す兄貴の横っ面に張り手を食らわした後、黙って玄関を開けた俺の背に姉貴が笑顔で問いかける。
「―……いってきます」
ぐっと息を飲んでから低く小さな声で呟いた俺は、不機嫌さを隠さずに思い切り音をたてて玄関を閉めた。
「くそっ……今日は“行けない”って言ったのに」
歩みを進めつつ苛立ちに舌をうつ。
「姉貴のやろー…橘に見つかったらどうしてくれるんだっつの…」
今日も休むと言った俺を姉貴は断固として許さなかった。
行かないのではなく“行けない”のだと訴えれば理由を問われ、仕方なく昨日の出来事を告げれば、昨夜十分にされたはずの“約束を破った云々…”の説教をまた始めるし……
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