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――…逃がすつもりはない、ってか。
バレないようにひとつため息を吐き、言葉を選ぶ。
「――……僕は昨日も今日も何も変わってません」
どうせこんなこと言ったところで誤魔化すことはできないだろうけど。
諦めの心情で橘を見上げた。
「最初は、な。最後はそんな喋り方じゃなかっただろう?――…昨日のプレゼント、最高に痺れたぞ、鈴(りん)ちゃん」
スッと上を向いて喉を晒した橘の、指し示す先には、顎の下に貼られたガーゼ。
―――昨日俺が蹴りあげたところだ。
「――……」
……やっぱり無理だな。これ以上演技(こんなこと)をしても無駄だ。
昨日からしていた嫌な予感が的中し、ドッと疲れが増した気がして、顔を伏せた。
――……仕方ない、か
フゥ、と一つ諦めの息を吐いて、口を開く。
「――……何が目的だ」
その声に先程までの怯えや戸惑いはない。そのかわりに本来の俺の声で思い切り不機嫌さを全面に押し出す。
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