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「その代わり、俺と“友達”になってくれ。“友達”なら良いだろ?」
――……友達。
その橘の言葉に微かに視界が揺れる。強張った身体を誤魔化すように気付かぬふりをして、俺の口は自然と静かな言葉を紡いでいた。
「――……断る」
切り捨てる言葉は短く、その後の言葉は我ながら淡々としていた。
じゃぁな、言いふらしたらただじゃおかねぇから肝に命じとけ。
そう告げるとスッと身体をひく。そして無言で彼に背を向けて歩き出した。
「はぁっ…嘘だろっ?友達も駄目なのか?」
後ろから叫ぶ橘を無視して足を進める。その背を橘の声が追いかけてくる。
「友達になるくらいいいだろー。なぁ?なんで駄目なんだよ」
――……“何故”?
その問いに自然と足が動きをとめる。そしてゆっくりと微かに振り返り、口を開いた。
「――……“僕”に友達は必要ないからだ」
冷えた視線とともに、それのみを吐き捨てて、再び背を向けた。
――そう、そんなもの。俺には必要ない。今までも、これからも。
内心そう呟き、黙って見送る橘を振り返らずに歩みを進める。
するとその行く手を塞ぐように俺の前に一人の男が姿を現した。
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