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疎ましい思いが沸き上がり、愉しそうに話す二人を睨み付け、ギリギリと内心で歯噛みする。
とにもかくにも、さっさと逃げよう。
俺がそう考えた瞬間、それを遮るように橘がフッと笑った。
「お前も本当に往生際が悪いな。まだ逃げようとか思ってんのか」
「――――……」
ほっとけ。往生際が悪い?上等だ。こちとら往生する気がこれっぽっちもないんだよ、この変態。お前らにだけは言われたくないね。
内心では酷く罵倒しつつ、橘の言葉に無反応を貫く。
すると続いて水城が口を開いた。
「もう諦めなよ。どうやったって誤魔化されてなんてあげないよ。さっきのを…あり得ないけど…、偶然で誤魔化したとしても、意味がない」
ニィッと口端を吊り上げて笑うその表情は橘そっくりだ。
さすが変態同士。変態は変態と似るんですね。
いっこうに逃げる隙を見つけられないことに増す苛立ちのまま、再び内心で毒づく。
それより、先程の水城の言葉はどういうことだ?
「……どういうことですか」
見上げるように様子を伺えば、水城は言葉を続けた。
「だって――……“見てた”から」
にっこりと見た目だけは極上の笑顔を浮かべた水城の言葉に嫌な予感が走る。
――“見てた”?……“何”を?
まさか、とその悪い予感を振り切るように否定した瞬間、その努力は見事に打ち砕かれた。
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