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「…ん…」
岩場で眠っていたカズヤが、ゆっくりと身体を起こす。
その様子を、私は海中から少しだけ顔を出し、見守っていた。
頭をさすりながら、ぼんやりと辺りを見渡すカズヤ。
なぜ自分が海に来ているのか、
寝ていたのかを、考えているようだった。
ふと、濡れていてる自分の身体を見て、不思議そうに首を傾げる。
少ししてから立ち上がり、ゆっくりと歩きだした。
カズヤはまだ微睡む意識の中、本能で自分の有るべき場所へと帰っていく。
着く頃にはきっと、自分が海にいた事さえ、覚えていない。
今さっき交わした『約束のゆびきり』も、覚えていない。
私に繋がる記憶は、何一つ覚えていない。
覚束ない足取りで岩場を歩いていくカズヤの背中が、段々と小さくなっていく。
「カズ…ヤ…」
小さな声で呼びかけると、声が擦れた。
涙で視界が歪んで、カズヤの後ろ姿が上手く見えない。
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