13人が本棚に入れています
本棚に追加
「……幸せなわけ…、あるかっ…」
もう、知ってしまった。
ナツと一緒にいる時間が、どれだけ心を満たして、かけがえのない時間だったかを、僕は知ってしまっている。
『出会わなければよかった』なんて、思える筈がない。
例えナツが、僕と出会わなければよかったと思っていても…。
「ナツ…、ごめん。自分勝手で…ごめんっ…」
抱きしめ、ナツの頬に擦り寄ると、ナツの身体がピクリと動いた。
「ん……」
ナツの口から、微かに言葉が漏れる。
「…ナツ!」
咄嗟に身体を離して、ナツの顔を覗きこんだ。
眉間に皺を寄せたナツが身を捩り、少しずつ意識を取り戻していく。
「…カチュナツの説得、お願いね」
「え」
カチュアの声に反応して顔を上げた時には、岩場の縁にカチュアの姿が無かった。
海の水面、大きな波紋を残して。
.
最初のコメントを投稿しよう!