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人って言うのは、自分の脳内で処理できないことが起こると必然的に考えることをやめるらしい。
なんて、そんな考えに至ったのは、実際に、今、俺が脳内で処理するにはあまり余るほどの変化の中にいるからだろうか。
「…ここは、どこだ?」
見覚えのない場所だ。
先程まで自分がいたはずの街中ではなく。
右も、左も、前も、後ろも。すべてすべて、木々が続いていて。
気がついたらココにいたなんて、言ったところで誰が信じるだろう。
こんな山の中、自ら足を踏み入れない限り、迷いそうもない。
しかし俺は先程まで、喧騒の五月蝿い街中にいたのだ。
気の合う友人たちとカラオケに行ってて、その帰りにマックで飯を食いつつゲーセンに寄って。
見事勝ち取ったグルーミーのぬいぐるみで友人に襲いかかるようなおフザケをしながら。
5、6階に姉が通ってるエステがあるビルの角を曲がって、そして…、
「――地獄、か?」
ああ、そうだ。自分はテンションの高いまま道路に飛び出した友人を庇って、車に轢かれたんだったか。
ビルの角を曲がりながら、襲い来るグルーミーから逃げるように、駆け出した友人。
その対向車線から、いきなり猛スピードで走ってきた車。
考える暇など、なかった。
叫ぶことすら許さない猶予の中。俺に出来たのは、呆然とした友人の手を引っ張って、遠心力さながらに場所を入れ替えることだけ。
後方の友人たちが、何かを訴えるように叫んでいた。
俺が手を引っ張った彼は、呆然としていた表情を絶望に染め上げて。
泣きそうな顔で、歩道に倒れ込みそうになりながら
“か、ずっ…”
無理矢理こっちに手を伸ばしながら、呼ばれた名前に、無意識に緩んだ口元。
お前が無事ならいい、なんて。
口にしたらお前は怒っただろうか。
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