66人が本棚に入れています
本棚に追加
「しかもそのスパイ殿は情報を操っていまだ尻尾すらつかめないほどの腕、そしてさっきも言ったが、かなり高い地位の人物だろうな」
俺は暗澹たる気持ちで泉さんの言葉をかみしめた。
「いまだに、情報源を特定できていない。どころか、騎士団内の情報の伝達経路を熟知していたとしか思えない。総団長に直接報告が行くレベルの事例など、限られているからね」
「まあ、それらもこちらの疑心をそらすブラフという可能性もあるがな」
ブレイブと泉さんの解説に俺はついていこうと必死だった。
ふーむむむ。そうか、だから総団長は忙しそうだったのか。
俺はエーヌの脅威がさったことで騎士団全体も一息つくようなムードだろうと勝手に想像していた。
それどころか、見えざる脅威に対して備えていたとは。
暗い気持ちでうつむいていた俺を見ていた泉さんは長い溜息を一つついた後、立ち上がって俺に歩み寄ってきた。
「真道くん、今回は本当に、大変な思いをさせた。本当に本当に本当に本当に……」
俺は泉さんの声が震えているのに気づき、慌てて顔を上げて驚いた。
目じりは赤くなり、涙を湛えていたからだ。
「え、あの、その」
俺があたふたしていると、細い指に頭をがしっと掴まれた。
そして俺の顔面はそのまま泉さんの柔らかなダブルマウンテンにぼふっと軟着陸した。
そのままわしゃわしゃと頭を撫でられ、窒息しそうになったが俺は動かなかった。
桃色の思考を押しのけて、なにかいろいろと込み上げてきたからだ。
どれだけ辛かったか、怖かったか、むかついたか。この人はすべて理解してくれているような気がして。
そのことが心強くて、嬉しくて。
俺は涙だけはこぼすまいと泉さんの胸の中で頑張った。
「よく、無事に帰ってきてくれた……」
俺は師匠から離れて激しく目を擦った後、咳払いをして話題を変えようとした。
「あの、キムとバンはどうですか? それとまあどうでもいいんですけど、ジョーカーは?」
ああ、ちくしょう。
自分の声が上ずっていて、俺はきまり悪さのあまり目をそらした。
最初のコメントを投稿しよう!