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「それは私からではなく、彼女に話してもらう」
そういうと泉さんは大股で病室を横切ると素早くドアを開け、中腰でドアに耳をつける格好のまま硬直していた女性を中に引っ張り込んだ。
なんだこの人。明らかに、今の今まで盗み聞きしていたぞ。
「マグ、この私と龍星の子の会話を盗み聞きとは、いい根性してるね」
泉さんの注意に対し、その女性は悪びれる風もなく、巻き毛の金髪を振った。
「やだマスター、私、盗み聞きなんかしてません。
ちょっとドアノブに知的好奇心が刺激されただけですわ」
泉さんは一つ溜め息をついた後、困ったような顔で俺とブレイブに向き直った。
「紹介しよう。彼女はマグ・ダレン。治療および事務専門の部隊、ヒアデス星団の団長だ」
「あーらマスター、雑用係の元締めと言っていただいてかまいませんのよ?」
女性は皮肉たっぷりに言うと、ぼさぼさの金色の巻き毛をかき上げた。
化粧品の匂いだろうか、化学的な香りがわずかにただよう。
けだるそうな表情が妙に色っぽい女性だったが、いかんせん大雑把な性格が隅々に見られた。
もっとも分かりやすいのは、からころと便所サンダルで闊歩する彼女の服装だ。
履いているパンツのポケットはひとつ残らずはみ出ているし、シャツの襟は片方に紅茶のシミがあった。
ぼさぼさの髪は大量のダブルクリップで止めていたし、着ている白衣は裏表逆だった。
俺はその異様に、すっかり度肝を抜かれてしまった。
フォーマルという概念に正面切って宣戦布告しているのかこの人は。
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