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「俺、生きてるんだ……」
エーヌとの死闘から帰ってきた。
瞬間を切り取ったような映像の断片が、頭の中を走馬灯のようによぎる。
俺は再び顔をしかめながら窓を開け放った。
太陽の日差しが顔を照らし、俺はどこか他人事のように、生きていることを認識した。
少し視線をずらすとウィットネスシティ、目撃者街が目に入った。
メインストリートを行き交う人々と熱い微風に揺れる南森の梢。
平和、そのものだ。……なぜか。
エーヌとの交戦の直前にもたらされた凶報にのろのろと思い至り、それを誤魔化すように俺は口に出した。
「あれ? 本部は怪物に襲われてたんじゃ……」
「それ、ガセだったらしいぞ……え? もっと強く、ですか。はい!」
俺のつぶやきに答えてくれたのは、銀杏の木の枝の中からの少年の声。
窓のすぐそばだ。
よーく目を凝らすと、枝の網目の中に空のように青い小鳥がいるのが分かった。
緑の海の中だったのですぐには気づかなかった。
彼こそが俺の体に宿った龍星、ブレイブである。
「はあ? ガセってどういう……なにやってんだ?」
俺は思わず言葉を止めて相棒の行動に注視してしまった。
ブレイブはその羽を器用に動かし、隣に止まっているカラスの羽の付け根あたりをマッサージしているようだった。
「なにってお前、ヴァネッサ姐さんのお肩をお揉みしてるんだよ」
「無駄にかっこいい名前だなカラスのくせに」
「こら! 姐さんに向かってなんて口のきき方だ! すいやせん姐さん、まだ尻の青い若造でして……」
この限りなく小物臭い鳥、世界の救世主である。
彼は(文字通り)その場の誰よりも青い尻を振りながら弁解していた。
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