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「調子はどうじゃ?」
俺は窓際に立ったまま答えた。
「はい、どこも痛くないし、全然大丈夫です」
総団長は満足げに頷くと、ブレイブに目を移した。
「上々、上々。ブレイブ殿はどうじゃ」
「オレは元々回復が速いからな。まだ万全とは言い難いが」
そういうとブレイブは俺の耳のあたりで羽を整え始めた。
「大事ないようでよかった。此度の二人の戦果は、龍星の子として実に素晴らしいものであった。騎士団総団長として、礼を言わせていただく」
ガーラント総団長は飾り気のない率直な物言いをする。
だからこそ、それが本心だとわかる。
「いえ……ありがとうございます」
総団長の曇り空色の目で見つめられ、俺は照れて口ごもった。
「何はともあれ二人が無事で良かった。それだけが最大の気がかりでの。……さて、来たばかりですまぬが今少々立て込んでおっての。本部に戻らねばならぬのじゃ。しばらくはゆっくり静養するのじゃぞ」
そう言って総団長はそそくさと立ち去ってしまった。
俺はちょっと拍子抜けしながら泉さんに向かって話しかけた。
「泉さん。確認なんですけど、エーヌは?」
泉さんは目を伏せると短く
「……死んだ」
とだけ言った。
俺は俯いて表情を隠した。
師匠に余計な心配はかけたくない。
顔に出すな。
「致命傷は、刀傷ですか」
俺は無様にも硬い声で問うた。
「ああ」
この瞬間から俺は殺人者になったことが決まった。
この手で、人を殺した。
俺は叫びだしたい衝動と必死で戦った。
必死で酸素を求めて喘ぎ、唇を噛んで息を殺す。
今は思考をなすべきことだけに集中させろ。
平静に、なれ。
伝えなくてはならない。
「十一代目龍星の子は、俺じゃありませんでした」
俺が静かに発した言葉に、泉さんは怪訝とした。
「どういうことだい?」
そして俺は話した。
あの時何があったのか。
エーヌに殺されかけた時、俺たちを助けた鎧の男のことを。
そして奴が最後に言い放った言葉を。
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