苦悩

6/46
前へ
/693ページ
次へ
「すべての人間を、殺す……」 「はい……」 あいつは確かにそう言った。 「そして……それが龍星の子の使命だとも言っていました」 その時泉さんは、僅かにだが眉をピクリと動かした。 「それは確かに龍星の子だったのか?」 ブレイブが声を上げた。 「ああ、それはオレが保証する。あの時奴は強大な星力を放ったが、最後の一瞬、奴以外の星力を感じた。底知れない、邪悪な意思も感じた」 最後の言葉だけ、俺は違和感を感じた。 奴が龍星の子だというならばそれは同時にある事実を意味する。 にもかかわらず。 邪悪。 本当にブレイブはそう思っているのだろうか。 「そうか……そんなことが……」 泉さんは相当ショックを受けているようだった。 「はい。でも龍星の子が現れるのは一つの時代に一人のはずですよね。なのになんで……。 それに奴が本当に十一代目なら俺は十二代目ってことに……」 「ちょ、ちょっと待ってくれ!」 泉さんは額を押さえて、よろよろと総団長が座っていた椅子に座りこんだ。 「すまない……私も実はいっぱいいっぱいで」 こんな余裕のない泉さんを見るのは初めてだった。 よく見ると髪には艶がなく、唇は渇いていた。 「泉さん……」 やはりエーヌと何かあるのか。 ――俺が殺したエーヌと。 俺は軽く頭を振ってその考えを振り払った。 そのことは後回しだ。後回しにしなければ。
/693ページ

最初のコメントを投稿しよう!

66人が本棚に入れています
本棚に追加