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「泉さん、本部が襲われたってのはデマだったんですか?」
泉さんは穴でも開きそうな勢いで眉間をもみほぐしながら、ああ、とうなずいた。
「見ての通り本部は無事。誤報にしても総団長にまで届くレベルとなると話が違う。信じられないが騎士団の上層部に裏切り者がいるようだ」
俺は、ルーキーズファイトや自分たちを囮に使われた経験から、自分が所属する地球守護騎士団という組織に対して特別に清廉潔白で高潔な組織であるという印象を持ってはいなかった。
しかし、レミナスメッセでともに命を懸けて怪物と戦う人々を目にし、自分もその一員であることにどこかで誇りを感じてもいた。
だから、裏切り者の存在を泉さんに明言されたとき、自分でも意外なほどに傷ついていた。しかし、納得もしていた。
当然、嘘の情報なんて内部からじゃなきゃ流せない。
そして、あのタイミングでそれを行うことには悪意しか感じない。
「でもエーヌが死んだなら仕える主君がいなくなって……」
俺の言葉に泉さんは力なく首を振った。
「いや、エーヌの回し者ではない」
俺は口をつぐんだ。
「奴は自分の中の人間性を徹底的に否定しようとしていた男だ。
人ならぬ者たちの中に身を置くことによって人である自分から目を背けていた。そんな奴が目的のためとはいえ、間者に人間を使うとは思えん」
俺はハッとした。支離滅裂だったのになぜか鬼気迫っていた言葉が自然と蘇る。
『光じゃダメだった……だから闇なんだ!』
「……ずいぶん、奴のことを理解していたんだな」
ブレイブの無神経な(意図的な?)言葉に泉さんの眼光が鋭くなり、そのあと再びひどく疲れ切った表情になった。
「当然さ……」
ブレイブにそれ以上の追及をさせまいと、俺は質問を続けた。
「じゃあ、そのスパイってのは何のために、いや、誰のためにそんな嘘の情報を?」
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