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詩織の1度目のオーディションは1月。学園ドラマのオーディション。
冴嶋社長が強く希望した《可愛らしいヒロイン役》…には抜擢されず、ほぼ脇役エキストラなクラスメート役に指名されたもんだから…社長がご立腹しながら出演NG宣告。
2度目は3月の殺人事件・推理映画のオーディション。
今度は控えめに《殺害された被害者男性の勤めていた、会社の若いOL娘役》で願い出てみた。
すぐに採用通知が事務所に届いたが、用意されていた、たった一度だけの台詞すら中途変更で予定から無くなった…と聞いて、社長がご機嫌を損ねて…またご立腹で出演NG…。
まだ詩織は有名なタレントでもないんだし、脇役じゃ駄目なのかな…?
…てゆうか、冴嶋社長の《詩織ちゃんのデビューを、この優れた演技力とともに華やかに飾らせたい》という決意は、本当に固いらしい…。
そして今、僕らは江東区にある《冴嶋プロダクション》へと、次の3度目のオーディションの結果を聞くために向かっている。
主都高速道6号向島線から、9号深川線に進入して辰巳JCTで下りて街道を走れば、冴嶋プロダクションのあるビルに到着する。
…そして街道を走っていた僕の車は、銀色の大きなビルの地下駐車場へと、吸い込まれるように入っていった…。
『…というわけで詩織ちゃん、次の機会を待ちましょう』
『…。』
『…。』
冴嶋プロダクションの事務所の奥の社長室。その中の応接席に座った僕と詩織。目の前には冴嶋美智子社長。
『あの…社長…。今度は何が…どうして駄目だったんですか…?』
冴嶋社長は脚を組み直した。
『…ひとつは、このドラマのヒロイン役が《青山優実》ちゃんに決まったから。…もうひとつは、彼女が所属している芸能事務所が、私個人的に嫌いだから。…最後のひとつは詩織ちゃんの出演料が、青山優実よりも安かったから…』
冴嶋社長社長は、最後に一言付け加えた。
『大丈夫よ。詩織ちゃん。次こそきっと、いい役柄が見つかるわ』
『はい…』
…僕らは社長室を出た。
『信吾、詩織、どうだった?』
事務所の隅の接客席に、角原咲絵ちゃんと向かい合って座っていた佐藤靖高くん。
靖高くんは立ち上がって、僕らのもとへと歩み寄ってきた。
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