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…社長。全っ然『少しだけ』じゃないじゃないですか…。
ほとんど詳しく話してしまってるし…。
だけど藤里さんが聞いたのは、事実に対して完全な《100%》ではない。
だって、僕が詩織と出逢うまでには《アンナさん》や《菊江のおっさん》の存在が不可欠だったし、池川金魚が早瀬ヶ池で一番になれたのも《秋良さん》や《啓介さん》や、他にもたくさんの《忘れられない仲間》の協力があったから。
岡ちゃんのおかげで、僕らは鈴ちゃんと知り合えて、冴嶋社長とも出逢えたんだ…ということも。
『…僕に詳しく話してくれませんか。謎の《池川金魚》という可愛い女の子が、とある街に突然現れ、そして華麗に一番の女の子となった《サクセスストーリー》を…』
「信吾…どうかなぁ?…本当に、藤里さんに話しても大丈…」
『分かりました。藤里さん、あの頃のことを詳しくお話します…』
『えぇっ!?』
詩織が驚いた表情で僕を見た。
『…ですが、ここからは詩織の方からお話しますので…』
『わ…私が話すの!?』
『うん。宜しく』
詩織は藤里さんをちらりと見た。
大丈夫だって。詩織。社長が自ら『話してあげて』と言った人なんだから。
《社外秘厳守》については、ちゃんと守ってくれるはずだよ。
『で、では…私がお話しますぅ…』
…初めは体を強ばらせ、少し固くなってた詩織。だけど、僕らのあの頃の記憶を辿り、藤里さんに話してゆくにつれ…少しずつ笑顔も見えはじめて…テンションも上がって、勢い凄く話している詩織は本当に、とても楽しそうだった。
聞いていた僕らにも、笑い声いっぱいで話す詩織を見ていただけで、それが十分に伝わってきた。
『…ありがとう。岩塚さん。岡本詩織さん。冴嶋社長、誠にありがとうございました』
『藤里くん、こちらこそ。ありがとう』
社長と藤里が礼を交わしたあと、僕らも…。
『ありがとうございましたぁ』
『宜しくお願いします』
そして藤里さんが、事務所から帰られる前に、最後に一言。
『この企画が通って、本格的にドラマ制作が具体化し、制作チームが立ち上がったら、またご連絡しますので…』
『…じゃあ、帰ろう。信吾』
『うん』
僕らは事務所を出た。駐車場へと向かう。
『鈴ちゃんと夜ご飯、一緒に食べに行かなきゃ、だしねー♪』
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