霧の村の日常風景

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地面に四つん這いになって肩で呼吸しているところで《人間》、アレクは顔を上げると目的の人物が目を丸くして此方を見つめていた。 昨日と変わらない赤い瞳に緑の髪の《アルラウネ》の少女、その顔を見て自然と声が漏れる。 「んなっ!何しにきたのよ!?」 アルラウネの少女もハっと気づいたように声を荒げた。 単純についさっきまで考えていた人物が急に現れた事による驚きと妙な気恥ずかしさからくる照れ隠しである。 しかしアレクはまだ昨日の、自分では分からなかった事で怒っているのかと思い。覚悟を決めた。 グリフォンのグーリーにクチバシでくわえられた時も決して離さなかった愛用のダガーナイフの切っ先をアルラウネの少女に向けたのだ。 「えっ!?」 「僕は霧の村のアレク!」 突然武器を向けられた少女は先ほどよりも大きく目を丸める。 アレクはそんな彼女を気にせずに自身の出身と名を宣言する。 これは父から聞いた体験談を元にした一種の賭けだった。 世界では相手と対峙して武器を構え、自分の名を宣言するのは決闘の申し込みをするのと同義、暗黙の了解だと。 それを上手く利用すれば気になる女性の名を簡単に聞ける、ただし基本的に名乗り返してくれる女性は屈強な者ばかり、だがそれが良いと父は言っていた。 だから彼女がこの《騎士道》という暗黙の了解を知っていれば。 アレクの賭けは成功する。 「…っは!」 最初は急にダガーナイフを向けられて驚いたが、そういう事かと少女は思った。 つまりこの人間は昨日の復讐に来たのだ。 そうとなれば話は早い。 挑まれた決闘、全力で叩き潰す。 ただの人間が1つの武器を持っただけ。 その程度では自分には勝てないと、絶対的な自信が彼女にはあった。 故に一度、鼻で笑って宣言する。 「上等じゃない!魔王四天王、アルラウネのルゥ!返り討ちにしてあげるわ!!」 そしてアレクの賭けは成功した。 アルラウネのルゥ。確かに彼女はそう名乗った。 少女、ルゥの名前を知れただけでここまで嬉しいものなのかとアレクは1人感動していた。 故にその前のルゥの台詞なんて頭の隅にすら無い。 心臓がドクドクと鼓動を刻み心が興奮に包まれる中、アレクはダガーナイフの切っ先をそのままルゥに向けたまま、宣言する。 「ルゥ。僕は、君の事が好きなのかもしれない!!」 人生で初めての、非常に曖昧な告白を。
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