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「さって……」
ケイヤの後姿が闇に紛れて見えなくなったのとほぼ同時だろうか。
マサアとタヤクが見据える先、自分たちが走り来たほうから獣の咆哮が聞こえた。
「――来たか」
言うが早いか、マサアは腰にぐるりと巻いたホルスターから肉厚のナイフを取り出し、眼前へと投擲する。
放ったナイフは暗がりから飛び出してきた獣の額へ見事に突き刺さり、絶叫が辺りに響いた。
「キマイラか」
月明かりの下晒された獣の姿を見つめ、タヤクがぽつりと呟く。
獅子の頭にヤギの胴体、そして蛇の尻尾を持つ醜悪な獣は、頭を一振りしてマサアが放ったナイフを落とし、踏みつけた。それだけで、ナイフの刃は無残にもぽきりと折れてしまう。
「あぁぁぁっ! おれのナイフぅぅぅっ!」
「まだ馬鹿みたいに持ってんだろ?」
「そうだけどさぁ……」
“馬鹿みたいに”という言葉は否定せず項垂れるマサアの姿に苦笑し、再び視線をキマイラに向ける。
「とりあえず――さっさとこいつを片すぞ」
言いながら放ったタヤクの拳は、襲いかかってきたキマイラの顔面を殴りつけていた。
『ルァッ……ッ』
殴られた勢いでその身を近くの木に打ち付けたキマイラだったが、跳ねるように起き上がり、すぐさま体勢を整えて大きく口を開く。
「やっべ!」
タヤクとマサアが後ろに跳ねたのと同時に、灼熱のブレスがキマイラの口から吐き出された。炎は森の草木に引火し、勢いよく燃え始める。
「マサアっ、消火!」
「わかってる! そっちは頼んだからなっ」
言いながらマサアは炎に向かい、口早に水系列の術詠唱に入る。彼は下位とされる魔法しか扱えないのだが、それでも火を消せないわけではない。
キマイラの口の端からは未だにぼうっ、と炎が漏れ出しており、自分に背を向けたマサアへ駆けだそうとしたが、すかさずタヤクが割って入った。
「お前さんの相手はオレだ」
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