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赤く焼ける世界。
崩れ落ちる“鳥籠”。
自分たちをあんなにも閉じ込めていた場所は、こんなにも脆く崩れていく。
夜闇のなか深く続く木々を背に、燃え落ちていくコンクリートの建物をじっと見つめながら、少年は思った。
「タヤクっ!」
自身の名を呼ばれて視線を向けた先では、炎と同じ、燃えるような深紅の髪の少女が笑っている。高く結わえた髪をふらりふらりと揺らしながら、少女は自身が呼んだ少年――タヤクへと近付いてきた。空を呑み込みそうな勢いの炎や、それによって崩れていく建物など目に入っていないかのように軽い足取りだった。
「……」
タヤクが呼んだ少女の名はあまりにも小さく、爆ぜる炎の音に掻き消される。
二人のいる辺りはまだ炎の勢いも弱く、時折火の粉が頬を掠めてくる程度である。炎の中心地には崩れた建物があったのだが、すでに影さえ見当たらない。
遠くには、人の声。
炎は少女の美しい顔も、タヤクの少し困ったような表情も、全てを浮かび上がらせる。
「――あいつらを頼んだからね」
言いながら、少女の細い指が煤けて汚れたタヤクの頬に触れる。彼の柔らかな茶色の髪は炎に照らされ、淡いオレンジ色にも見えた。
「お前、本当に……」
「タヤクっ!」
何かを言いかけたタヤクだったが、横から別の声に名を呼ばれ、びくりと肩が震えた。声が聞こえたほうを振り向く前に、少女はにっ、と笑って「行け」と言う。見慣れたはずの緑の瞳はいつものようにいたずらっぽく細められていたが、妙に印象に残る。
そうしてタヤクが口を開くより先に、少女は紅いポニーテールを揺らしながら炎の中心地へと駆けだしていた。
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