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◆ ◆ ◆
「タヤクっ!」
走り去る紅い髪が炎の色に混ざって見えなくなってから、ようやくタヤクは振り向いた。
そこにいたのは、大きな目で自分を見つめてくる長身の少年であった。
「やっといた!! なんでこんな端っこに……っ」
吐く息も切れ切れに、少年はタヤクの元へ駆け寄る。どうやらこの炎の中、彼を探して走り回っていたらしい。
短く切った金色の髪も、長身の割に愛らしい童顔も、先ほどのタヤクのように煤けて汚れていた。
「マサアか」
「あのなー、あそこが壊れたらそのまま逃げる、って言ってたじゃんか! なのにいきなり走ってどっかに行くなよ!」
「あぁ、悪ぃ……」
額の汗を拭いつつ詰め寄るマサアの言葉を半ば聞き流しながら、タヤクは少女の走って行った方を見続けていた。
彼女が向かった炎の中心部。
そこで真っ先に燃え崩れ落ちたのが、マサアの言う“あそこ”であり、今までタヤクやマサア、それに先ほどの少女が暮らしていた“鳥籠”だった。
その姿ももはや瓦礫一つ残さず燃え尽くしている。
普通の炎ならばそんなことはないのだろうが、いまこの場所を舐めつくそうとしている炎は“普通”ではない。
――なにせあの炎は……
タヤクの脳裏には、先ほど去っていった少女の姿が浮かび上がっていた。
彼の傍に寄ったマサアも同じように、すでに影も形もない“鳥籠”と、その他の建物があった場所を眺める。
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