378人が本棚に入れています
本棚に追加
「……あいつに会った」
ぽつりと呟かれたタヤクの言葉に一瞬目を丸くし、「そっか」とだけ短く返す。
「なんて言ってた?」
「お前らを頼む、って」
その言葉に、マサアはにっかりと微笑った。
「あいつが一番大変なのになぁ」
「そうだな……」
炎の燃え盛る音が耳の中で暴れている。ごうごうと、それは全てのものを燃やし尽くすまで治まらないかのように。
「――行こう、タヤク」
いつの間にか顔を伏せていたタヤクの背をぱんっ、と叩き、マサアが促す。
その表情はいつになく引き締まったもので、いつも緩い顔をしている彼にはなんだか似合わないな、とそんなことを思ったタヤクだった。
勢い衰えることを知らない炎は、風に煽られどんどん燃やす範囲を広げていく。
タヤク達の場所まで届くのも時間の問題であった。
「あいつの代わりにおれらがちゃんと守ってやんないとなっ」
「お前は言われなくてもそのつもりだったろうに」
「あったりまえじゃん! おれの大事な家族だもんっ」
ふふん、とどこか誇らしげに鼻を鳴らしてタヤクに答える。
そして炎を背に、マサアは森の中へと走った。その後を追ってタヤクもすぐに駆けだす。
振り返ることはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!