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炎の赤も見えなくなり、わずかな月明かりだけが頼りの森の中。
前を走るマサアの金色の髪は、夜の闇に柔らかく浮かび上がって見える。
置いて行かれないよう真っ直ぐにその背を追いかけ、やがて他の場所よりもやや開けたところに人影が見えた。
一人は黒髪を肩で切りそろえた少女で、もう一人は彼女を護るように立ちはだかっている青年だった。
視力が悪いのか二人とも縁なしの眼鏡をかけていて、青年はその奥からじっとタヤク達を睨むように見ていた。
「ケイヤっ、遅くなってごめんっ!」
青年の名を呼びながら駆け寄るマサアに続いて、タヤクも「悪かった!」と詫びながら三人の輪に混ざる。
ケイヤは何も言わず、マサアとタヤクを交互に見て静かに頷いて見せた。
「――怪我はない? 大丈夫?」
庇われるようにケイヤの後ろにいた少女が、不安げな視線を眼鏡の向こうから寄越してくる。
それにも「なんともないよ」とタヤクは笑って返した。
精悍でありながら常に穏やかな表情の彼が笑うだけで、少女は安心したようにほっと息を吐いた。
「キーナにも余計な心配かけちまったな。悪い」
「それは、いいのだけど」
答えながら、キーナはその白い指でタヤクの髪を撫でる。月明かりに照らされて、彼の頬や髪に付いた煤汚れがよく見えたのだ。
拭ってやったそれを両手を叩き合わせて落とし、「行きましょう」と静かな声で告げる。
「あの子が頑張っているんだもの……無駄にしたくないわ」
その声には華奢で儚げな見た目と裏腹に、強い決意が滲んでいた。
彼女の言葉に、他の三人も力強く頷いて応える。
自分たちが来た方を振り返ると、夜の空に黒煙が幾本も立ち上っているのが見えた。
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