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◆ ◆ ◆
一閃。
夜の闇を切り裂いて刃が閃く。ケイヤが抜いた剣の一太刀で、石で出来たガーゴイルは真っ二つに切り裂かれた。
「まだいるかっ?!」
「あと一体っ!」
月の明かりがほとんど届かない森の中、走りながら交わされる言葉。タヤクの問いに答えたのはマサアだった。
非常に良い視力の持ち主である彼は、月光に一瞬躍った影をその目で捉えていたのだ。
「見えたのはそんだけっ!」
鬱然とした森の中では障害物が判然とせず、全力で走るのは大変危険なのだが、ランプなどの明かりは生憎と持っていない。
術を使えるキーナやマサアに頼めば光球の一つでも簡単に出してくれるのだが、わずかな明かりでも居場所を知らせることになると、ケイヤが嫌ったのだ。
追われる身としては少しの危険も冒したくない。
「じゃあそれを片せばとりあえず落ち着けるな?」
「多分っ!」
体力のないキーナを先に先にと走らせ、追ってくる手合いは男三人が悉く打ち倒していた。それらは全て、自分たちを閉じ込めていた“鳥籠”の“検査”で使われていた魔物や合成獣であった。
先にケイヤが真っ二つにしたガーゴイルも、魔物の一体である。
自分たちが“鳥籠”から脱走したことに気が付いた“飼育者”たちが放った追手なのか、それともあの火の手に紛れて自分たち同様に逃げ出してきたのか、その判別はつけられない。
それでも、不安の芽は摘んでおくに越したことはないのだ。
「ケイヤはキーナのとこに行ってあげて! おれとタヤクでどーにかするっ!」
「分かった」
その場に足を止めて言うマサアに短く答え、ケイヤは手にした剣を鞘にしまう。彼の右手が鞘先から柄頭まで撫でると、手にしていた剣は跡形もなく消えてしまった。
身軽になったケイヤはその場に立ち止まるマサアとタヤクを一瞥することもなく、薄暗い森の奥へと駆け出していく。一匹たりとも取り逃していないはずだが、それでも一人先行くキーナのことが心配だった。
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