出頭

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「帰って下さい。今、忙しいんですよ」  溜息混じりに吐き捨て、膝に手を当て立ち上がろうと腰を浮かせた時、唐突に女が口を開いた。 「暇でしょう。他殺の可能性を考えず、自殺と決め付けて動かない警察は」  酷く、冷たいその声に、今日で50歳の俺は鳥肌が立っているのを感じた。  いや、それより、彼女の今の言葉。  身に覚えがある。  仕切に鳴り響く脳内警鐘を引っ込め、恐る恐る問う。 「それは……、“OL飛び降り自殺”のことですか?」 「“飛び降り自殺”ではないですが、世間ではそう呼びますね」  彼女はつまらなそうに言い、弄んでいたボールペンをデスクに戻す。
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