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「赤ずきん。赤ずきんや。」
何かが焼けたような香ばしい香りが漂うキッチンからお母さんの声がした。
今はまだ朝。
昼食を作るにしては早すぎる時間になにを作ったのかな?
「はーい!なぁに?お母さん。」
「ちょっとお願いがあってねぇ。」
そう言いながらお母さんは何かが入ったカゴを私に差し出した。
「これ。あの小さな森を抜けたところにおばあちゃんのおうちがあったでしょぅ?おばあちゃんは体が悪いからね。このパンとクッキー、ジュースを持ってってほしいのよ。」
カゴにかぶせてあるピンクのチェックの布を取りながらお母さんはそう言った。
「おばあちゃんち?!やったー!」
「さわがないの!あなたはまだ、9才だからおつかいくらいなら簡単かもしれないけど、あそこの森は小さいとはいえ危険なの。でも、おばあちゃんのためにあなたがいってほしいのよ。おばあちゃん、あなたに会うのずっと楽しみにしてるから。」
「わかったわ!私、もう子供じゃないもの!来年は10才になるんだから!」
「威勢だけはいいんだからね、あなたは。お母さんはいろいろ用事があっていけないから、気をつけてね。」
「うん!!!」
元気よく家を出た私。
幼い私は今よりもさらに幼かった頃の出来事などすでに忘れていたのかもしれない。
覚えていようもしていなかった。
それが、私の命をじりじりと削っていくとも知らずに…。
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