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ーそして、こんな時でさえ、『許して欲しい』とは言わない吉田の『優しさ』に、堪えきれず、葵の頬を温かな雫が伝う。
吉田
「泣かないでくれ、葵。今の私には、君の涙を拭う『資格』すらないのだから………。」
けれども、葵の涙は、中々止まりそうになくて。吉田は苦笑して、立ち上がると葵を抱き締めた。
吉田
「………すまない。これが、『最期』だから、少しだけでいい、許してね?」
ー何故、今更になってー
今まで、吉田はこんな風に、葵を抱き締めたことなど、一度もなかったのに。
何故、今更になって、そんなことをするのか。
葵
「………栄太郎様………?」
吉田
「………葵が、私を『愛してくれる』なら、もしかしたら、止めていたかも知れない。」
そんなことまで、言い出す吉田。葵の心に芽生えている『ある人物』への淡い想いを、第六感で、感じ取っていたから………。
葵
「私………、私にはわかりません。『誰かを愛したこと』など、ありません!」
吉田にまで、そんなことを言われ、葵はますます混乱する。大事な人は、最愛の兄・原田だけでいい。そう思っているのに……………。
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