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吉田
「やれやれ。それを私に言わせる気なのか?まぁ、もうそろそろ、気付いても、いい頃だからね。
今、葵の心の中にいるのは『誰』?目を閉じて、脳裏に浮かぶのは、『誰の顔』?」
葵は、吉田に言われるまま、瞳を閉じた。瞼の裏に、ぼんやりとした影が現れ、次第に鮮明に人の形を取った。でも、その姿は…………!
葵は、ハッと目を開いた。わけがわからなくなった。いや、正確には、信じられなかった。
浮かんだのは、兄だけではなかったのだから………。
ー大事な人なんていらない。兄上だけでいいー
そう思っていたはずなのに。今だって、そう思う、その心に『嘘偽り』など、ないのに。
吉田
「……………それが、葵の『好きな人』だよ。浮かんだのは、『左之助さん』だけじゃなかったろう?」
吉田は、少し、淋しそうな、哀しそうな顔をした。葵の脳裏に、自分の顔がなかったことに、気付いていたから……………。
葵
「………栄太郎様っ、ごめんなさい、ごめんなさいっ!私、私は貴方に………」
また、涙を流しながら、言い掛けた葵の唇に、吉田が人差し指を当てて、遮った。
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