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吉田
「…いいよ、言わないで。わかっていても、葵の口から直接言われたら、立ち直れそうにない。」
そう言って、吉田は、眉を下げて、すまなそうな笑みを浮かべた。葵の胸が、締め付けられた。
吉田
「ほら、もうお帰り、葵。君には、君の『帰りたい場所』があり、私にも、私の『帰るべき場所』がある。
………逢えて良かった、葵。君が変わらぬままでいてくれて、嬉しかったよ………。」
花のように、可憐で清楚。心は優しく、慈愛に満ちている。『血に濡れた』自分と違って、身も心もまっさらで、綺麗なまま。
葵
「………すみません、栄太郎様。私、これで失礼します。………お気を付けて下さいね?」
そう言って、葵はパタパタと足早に出ていった。その後ろ姿を見送りながら、吉田は苦笑した。
吉田
「………全く、本当に変わってない。『お気を付けて』って、私達は『敵対関係』にあるってことを、ちゃんとわかっているのかな?」
それでも、変わらない葵が、未だにこんなにも愛おしくて、拐えることが出来れば、どんなに良かったか……………。
吉田
「………さよなら、葵………。私の愛しい、この世で、たった一人の君。」
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