斥候の暗奔

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項垂れ震えるクイントゥラ。 武に秀でているとはいえ、いや、武に秀でているからこそ、先ほどの状況を振り返るとミズカと同じ仮説に辿り着くのだろう。 なまじ賢いがゆえに、辛辣な可能性を導き出してしまう。 しばらく、そっとしておくべき状況。 しかし、事態はそうもいかない。 (追ってくる気配はなさそうだが、念には念を、だ) 今し方落ちてきた上の階などから、攻撃してきた者たちが現れないとも限らない。 (むしろ、来ないのが不気味だ) とりあえず、移動しながら次の行動を考えなくては。 「クイントゥラ、中央への道筋を教えてくれ」 そう思って声を掛けたミズカだが。 「…」 クイントゥラは震えている。 否。 「…くっ」 泣いていた。 (相変わらず情が深い…良い主君だ) ミズカの思う通り、彼女は情に厚い。 それゆえに家臣に恵まれているのだ。 一人ひとりへの想いは強く、ましてや幼少から父代わりのデルツに対しては、家族の情が特に強いのだ。 言わば、彼女にとって、とても慕っている父に裏切られ殺されそうになったかもしれないのである。 そんな彼女が、内的に今一生懸命感情と闘っているのに、外界への意識など回らないのだろう。 だが。
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