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他の連中が前を向いて授業を受け始める中で、一人の女子がこちらを向いたまま、笑顔で口を動かしている。
(お・は・よ・う)
口ぱくでそう言っているのは鈴だった。
俺は軽く手を挙げて挨拶を返した。
鈴は嬉しそうに笑って、また黒板のほうを向いて授業に集中し始めた。
俺も自分の席に座り、窓の外を眺める。
俺の席は窓側1番前の席だ。
前だろうが、後だろうが、関係なく授業中は自由に時間を潰している。
ちなみに、鈴は真ん中の列の1番後、優は俺の隣だ。
そろそろ優が教室に入って来るころか。
そう思ったときにちょうど教室の後ろ扉を静かに開く音が聞こえた。
来たな。
俺はそう思いながらも、窓の外を向いたままだった。
入って来たのは優で間違いないだろうし、これからの優の行動はいつもと同じだろうから見るまでもない。
……そう思っていたが、何か様子がおかしい。
クラスの連中や教師が何かに驚いているような雰囲気になっている。
宇宙人でも入って来たか?なんてくだらないことを考えながらも、少し気になって、俺も振り返って後を見た。
すぐ近くまで優が来ていた。
優は教師と話していたか?
教師はいつの間に優に着席していい、と合図を出したんだ?
いや、そんなことはしていないだろう。
それを聞き逃すほどぼんやりしていたわけではない。
つまり、優は俺のように、教室に無言で入り、そのまま着席したのだろう。
少し驚いて優のほうを見ると、口パクで
(一度やってみたかったんだ)
そう言っていた。
俺も自然と笑顔になる。
こいつのこういうところが面白い。
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