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呼び止める声がした。
聞こえていたけど、止まったらきっと自分が傷つく。
何を言われるかなんて検討はついているから。
何さっきの?気持ち悪い。超能力?プライバシーの侵害。大方こんなもんだ。
下まで来て外に出る。マンションを見上げると死神と目が合った…多分。
「ご飯、おいしかった」
聞こえなくてもいいからちゃんと口に出したくて、見上げたまま小さく呟いた。
住宅街を抜け、街に出ると、急に現実に引き戻された気がした。
さっきまでのことは、きっと夢だったのだ。
その晩、声をかけてきた男についていき、部屋で飯をもらい風呂に入って抱かれる。
いつもと同じなのにいつもよりも心が空っぽだった。
ただはっきりしていたことは、このままこの部屋で朝を迎えるのは嫌だということだけ。
「何、帰んの?」
男の不機嫌な声を無視して服を着る。
「何か服貸して」
借りた服を着て、死神の服と金を持って家を出た。
公園のベンチに座り目を閉じると、死神のことを思い出す。
温かい腕、優しい手、おいしいご飯、安心できる匂い。
死神から借りた服を広げ、誰もいないことを確認し思いきり抱き締めた。
自分の匂いとさっきの男の部屋の匂い、それから煙草と男の家に置いてあったシャンプーの匂い。
色々な匂いが混ざりすぎてて、死神の匂いを見つけるのはもう不可能だった。
初めは死神自体の匂いがないから着たくなかったのに、今は部屋の匂いとか、そういったものでもいいから見つけたいと思っている。
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