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それにしてもこの服…返すべきだ。
死神の家でいい思いをしてから、他のやつの家で寝泊まりすることが出来なくなってしまった俺は、公園のベンチに座ったまま眠るのが習慣になってしまった。
だけどやっぱり体は痛いし、普通に布団で寝たい。
そう思うのに、泊まらず家を出てきてしまうのは、こいつ(Tシャツ)がいるから…。
関係を持った相手の家に寝泊まり出来なくなってしまったその日から、このTシャツが大活躍しているからだ。
広げて体を包むもよし、抱いて眠るもよし。
だけど自分の体の為にも、そろそろさよならするべきだろう。そう思ったのだ。
とは言っても捨てることは出来ない。愛着が涌いていて無理だった。
結果的に返すという結論に至ったのだ。
しかしその前に洗わなくてはいけない。圧倒的に抱いて眠ることが多かったためにヨダレが…。
そんな訳で、今コインランドリーに来ている。
洗濯機の中でゴロゴロ回るあいつ(Tシャツ)を見ながら思った。
これでお別れか…。
コンビニでビニール袋をもらって、油性ペンを借り、その袋に書いた。
「俺の服は燃やしてください、と。これでいい」
燃やす?普通捨てて…。俺は肝心なときにもチョイスがおかしい。
死神のマンションに近づくたびに鼓動が速く大きくなる。
学生だろうし、この時間はいないはず。
部屋の前まで来てドアノブに袋をかけた。
ドアの前でパンパンっと両手を叩く。自分でも訳のわからない行動を取った。
「いい思いを、ありがとう」
マンションを出ると足がガタガタ震え出す。
「何これ」
思っていたよりも緊張していたようだ。だけどそれだけではない。
喪失感だ。
服が手元からなくなっただけだというのに。
「これぞ死神マジック」
…
ふざけてる場合じゃない。独り言にツッコミを入れる。
確実にダメージを受けている。おれはあいつ(Tシャツ)を見くびっていた。
…
Tシャツの裏に付いてるタグぐらい記念に切って盗んどきゃよかった…。
そんなバカなことを考えていると、どこかの家から煮物らしき匂いが漂ってきた。
思い出すのは死神の肉じゃが。
「食べたいなぁ」
あいつの作ったご飯。
もう繋がりは何もないのに、未練がましくもそんなことを思った。
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