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「マスカット嫌い?」
嫌いではない。皮を剥くのがめんどくさかった。口の中に皮ごと入れてモニュモニュしてもマスカットの皮は剥がされることを頑なに拒否するから諦めたのだ。
「皮が一緒に居たいって…身と」
「…なんだそれ」
皿を片付けようとしている死神が、急に手を止めた。
「表現が分かりにくい」
そう言うと死神はマスカットを手に取る。そして皮を剥き、身を皿に戻した。それを個数分繰り返す。
「これでいい?」
「ありが…あ、それ汚い。一回口に入れた」
最後死神が手にしたマスカットは、俺の口の中で揉まれクタクタになっていたものだった。
「捨てるの勿体ないだろ」
(この程度何が汚い。体洗ったの忘れてんのか?)
「忘れてない」
「あー…でも、あの時はいきすぎてたと思う…ごめん」
あれ?何かおかしい。さっきミスったような気がしたのだが。でも死神は何も言わない。
ということは気のせいだということか。
「こちらこそ。途中気持ちよすぎて見苦しいもんに進化した…」
…
「進化って…っ…はは!」(こいつ表現おかしい)
この時笑った顔を初めて見た。笑わなくてもいい顔してるとは思ってたけど、こんな顔されたら女はイチコロだな。
「片付けしてくる」
食器を持って部屋を出ていこうとする死神が急に止まった。
「あ……あー…まあいいか、なんでもない」
何か言いかけてやめた言葉は、心の声としてしっかり聞こえた。
ドアが閉まると一人残された部屋で、またベッドに横になり毛布を被る。
「ありがと…」
聞こえた声は、「見苦しくなかった」だった。
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