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何気ない一言で、全ては終わった。
「お母さんの声が2つ聞こえる」
家族3人でテーブルを囲み、夕食を食べ終えたあとだった。ぼんやりテレビを見ながら何気なく口に出したその事実は、あの人たちを傷つけ、そして蝕んでいった。
小さな頃から俺の耳は妙な意味で聞こえが良かった。相手の声の後ろにもう1つ声が聞こえるのだ。それは耳に聞こえるのとは違い、頭に響く声だった。
あの人たちは疲れていた。毎日俺に心の声を聞かれまいと、気を張っていた。
それが俺のためだったのか、自分のためだったのかは分からないが…。
気の休まらない生活は、確実にあの人たちを苛立たせていった。初めは小さな苛立ちも、次第に膨らみ遂にはぶつかり合った。
「厄介なガキ産みやがって!」
「あたしだけの子供じゃないでしょ!?あんたの子じゃない!」
「お義父さんに似たんだ!お前の血筋だろ!」
温厚だった父親の怒りに崩れた顔は少し笑えた。それとは対象的に、母親の泣いている姿には心が痛んだ。
言い合いが始まると、俺は自分の部屋に戻り耳を塞ぐ。心の声が耳ではなく頭に響くことが分かっていても、そうせずにはいられなかった。
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