99人が本棚に入れています
本棚に追加
家を出たはいいが、勿論死ぬ勇気はなかった。頼る親戚も友人もいなかった俺は、24時間営業のコンビニや廃れた公園を転々とした。補導されでもしたらあの人に連絡がいってしまう。それだけは避けたかったからだ。
腹の虫が鳴き出して、財布の中を確認する。中には千円札が一枚しか入ってなかった。出て行く前に金をもらうんだったと後悔したが、仕方がない。とにかくこれでやれるだけ頑張ろう。
まだ昼前、今食べたら夕方に絶対にまた腹が減ると思い、夜まで待つことにした。空腹を紛らせるために公園で水を飲んで腹を膨らます。そして夜、コンビニで一つおにぎりを買う。だけど全然足らなくてまた水で腹を膨らます。
そんな生活を9日間続けた。そして金が底をついた日、「今日からおにぎり100円セール実施中」の旗が涼しげに風に揺れるのを見て無性に悔しくなった。
なぜ今日から100円セール…。ずっと100円だったらあと一日食えたのに…そんなことを思いながら、いつもの公園でまた水をがぶ飲みする。
水道の前に手をついたまましゃがみ空腹に泣きそうになっていた時、静かにか細い声が聞こえた。
「ねぇ、一人?少し前もここいたよね?アパートそこなの。ごはん食べる?」
初めて会ったやつに着いていくなんて普通はしない。ただこの時は、冷静な判断ができないほどに腹が減っていた。目の前にいる女が自分をどんな目で見ていて、何が目的かなんて分かってはいても、そんなのは二の次だった。
「お風呂入っておいで」
その前に飯、と思ったが
素直に言うことを聞いた。機嫌を損ねて食いっぱぐれるなんてごめんだ。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、テーブルには和食中心のメニューが並んでいた。普通に美味かった。
黙々と食べていると女は顔を覗き込み、まじまじと見つめてくる。
「やっぱりいい顔してるね、あたし綺麗な男の子大好き」
大好き…。もう一つの声は「大好物」とはっきり聞こえた。
その後は予想通り、聞こえた通りの展開だった。
翌朝、帰るとき女は金をくれた。
「また困ったらおいでね」
(童貞だったなんて最悪。でも顔は良いからいっか)
おとなしそうな顔して、女は怖い。
「童貞ですいませんでした」
靴を履きながらそう言うと、女の顔を見ることなく出ていった。
久しぶりの飯あり風呂あり寝床あり…やっぱり幸せだ。初めてのセックスよりもそちらの方に感動した。
最初のコメントを投稿しよう!