第1章◇そよ風

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「時間がないので、そろそろ陽菜さんを離して頂けませんか?」 陽菜はボケーとしていて忘れていたがまだ女性に抱きつかれている。 「いーやーよー‼これを逃したら次いつくるか分かんないのよー‼」 しかし女性はいっこうに離れようとしない。 「……ふぅ、参りましたね」 管理人が困った顔を浮かべていると ガッ 「ぐぇっ」 陽菜の頭の上で女性がカエルのような声を上げた。 そしてふと陽菜に抱きつく力が弱まったので陽菜は女性から離れ後ろを向くと 背の高い金髪の格好いい男性が女性の首根っこをつかんでいた。 管理人と同い年か、少し年下ぐらいにみえる。 「えー加減にせんか、その女の子ついていけてないやんか、管理人困らすのも大概にせい」 男性はハキハキとした関西弁でそういうと女性を掴んでいた手を離した。 「なによー邪魔しないでよー」 女性はまだ駄々をこねるように文句を言っている。 「………はぁ」 その様子に男性はため息をつくと 「この女の子の担当はもう決まっとるんや、ちゃんと実践経験積ませとかんとあかんやろ?」 「………ああ、なるほどね、それなら仕方ないわねー」 男性が言ったことにどんな意味があるのか陽菜には理解できなかったが、女性はそれに納得したようで 「じゃあ、今回は譲るわ、じゃあねー」 そう言ってさっさと何処かに行ってしまった。 「…………まったく、ほな、俺も行くわ」 男性もそう言って去っていった。 「………………」 陽菜はなんとも言えない表情を浮かべていた、ハッキリ言って事態についていけていない。 「……………………あ、白衣の集団」 ボケッとしたままでいると今度は10人くらいの白衣の人々が歩いてきた。 こっちを見てボソボソ何か話している。 ――もう、帰りたい 陽菜はなんだか不安になってきた。 「さぁっ二階へどうぞっ」 そんな陽菜の気持ちを感じとったのか、管理人は慌てて陽菜の肩を掴むと、明るくそう言って、階段の方へ向かわせた。
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