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地下牢に幽閉された姫君は、一言として声を発しなかった。
ただ、虚空を見つめ、ぼんやりとしていた。
その時が訪れるまでは。
「ほら食事だ、食いたければ食え」
「あ………」
それまで虚空を見つめていた姫君が反応を見せた。
その料理は、ライスとトマトスープ。
普通に美味しそうである。
「いただきます」
姫君はスプーンでスープをすくい、一口飲んでみた。
すると。
「……おいしい!」
「あ?」
「何これ!こんなおいしいの食べたことない!うちの料理より倍はおいしいねコレ!
ちょっと兵士さん、これを作ったシェフを呼んでくれない?」
「あ、ああ、いいだろう。
呼んできてやる。
感謝しろ」
「あんがとぉござぁやぁす!」
(なんなんだこの女は……)
「ほら、呼んできてやったぞ」
「あの~、なんか用スか?」
「あなたがこの料理を作ったのね?」
「あーはい、そうスけど」
「あなた、うちのシェフとして働いてくれない?
あなたの料理、最高に美味しかったわ!」
「いや、オレ、この国の城下町に彼女と住んでるんで、彼女がいいって言ってくんねーと無理っス」
「引っ越しの費用は私が負担するわ」
「あー、じゃあいいっスよ」
「おい💧」
「あ、あと、幽閉中の私の料理もあなたにお願いするわ。
いいでしょ、兵士さん?」
「俺には関係ないことだ、好きにしろ」
「やったぁ♪
兵士さん、あなた結構いい人ね♪」
「ふん」
「おっと、申し遅れましたッ。
私はアリス・ネバーリグレット、アリスって呼んで!
兵士さん、シェフさん、
これからしばらくよろしくお願いしまっす!」
「シグリッド、シグでいいっス」
「ヴァルゴでいい。
姫君だろうと容赦はしない、変なまねをしたら命はないと思えよ。
あと、少しは人質の自覚を持て」
「おカタイなあ~ヴァルさん」
ゴスッ
「次そう呼んだら命はないと思え」
「げんこつ……いただきました……ッ」
つづく
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