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ゆっくりした動作で血にまみれた鋏を手に取る。月に照らされたそれは、きらきらと光っている。
窓ガラスのない窓に視線を向ける。
「前の『僕』は、ここから落ちたんだ。」
前の『雪弥』は両目を捧げることが出来なかった。
右目が残ってしまった。
だから
未来で『雪弥』は創られた。
『雪弥』の絶望は終わらない。
「僕が終わらせる。」
右目の前に鋏を構える。
赤い滴がぽたり、と落ちる。
僕で最後。
『雪弥』の人生はもう二度とない。
それで、いい。
楽しかったことも、悲しかったことも大切にできる。
「健、ばいばい。」
返事は、やはり、ない。
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