開戦

11/15
前へ
/234ページ
次へ
  男性が持参したジュラルミンケースから専用のレターセットを取り出す。 世界が『帝央會』の公正さを求めるときに使われる手紙だ。 源一郎が訊ねる。 「略奪を認めんのは理解した……奪い合うだけなら永遠に終わらんだろうしな。だが、その揃えた分はどうすれば良い? 揃えた側の戦力として数えるのか?」 「そう、ですね……一応『戦力』として数えて戴いても構いません。きっと心強い『戦力』となることでしょう」 ーー含みのある受け答えだな。まるで4つ揃えると何かが起こるかのような言い種じゃないか。 ソファから立ち上がり、源一郎は男性と3歩程度の距離まで詰め寄る。 「答えろ。これは、今回の戦争の意義は何だ? 殺し合わせてお前らに何の利益が出る? そして、俺たちが断った場合はどうするつもりだ?」 もちろん、源一郎が戦争を断る理由は無い。 野心家で豪胆、そんな彼がこのチャンスを棒に振るワケがない。 だが、それでもこの大きすぎる疑問は解消しておきたかったのだ。 男性は答える。 「ではお答えしましょう。まず、この戦争の意義は世界の発展に大きく貢献するからです」 「……ほう?」 「いつの時代も、もっとも先進的な技術は兵器に利用され、研鑽(けんさん)されます。包丁が石刀という殺しの道具から産まれるように、化合物が毒の研究の副産物であるように」 「それはこじつけに近くないデスか?」 「しかし国家総出で敵を倒すための研究に没頭します。しかも、互いに。それはいずれ、いくつもの技術革新の始まりをもたらすのですよ」 原子力発電も、元を正せば戦争のために作られた核弾頭に始まる。  
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加