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菅城は訓練所に置かれた使い捨ての治療魔導器で顔の腫れを治している。
「ほらよ」
もう片方の手に持っていた魔導器を櫛原に放り投げる。礼だけを言った櫛原はわき腹にそれをあてた。傷口の痛みが和らいでいき、あと少しで終わる。
頭の中では痛みが残っている。それはただ痛いというわけでは無く、一つの衝撃の余韻ともいえるだろう。
「結局、俺のが上だったな」
まだ余韻が引かない内に菅城は追い打ちをかけた。下唇を噛む事しか出来なかった櫛原に更に言う。
「俺はお前との実力を五分五分と見ている。これは過大評価でも過小評価でもねぇ……じゃあ今回は何が勝負を分けたのか」
菅城は櫛原の顔を覗き込むようにしゃがんだ。
「一体何があったんだよテメェは?」
「答えねぇってんなら別に構わねぇ。誰にだって言いたくねぇ事や言えねぇ事だってある。
だけどな、俺が気に食わねぇのはそこじゃねえんだよ!」
「その顔ヤメろ。いかにも自分は悲劇の主人公ですって面をやめろ。どんな事情があるのか知らねえが、俺やルーセラに言わないって事は自分で抱え込むって覚悟したんじゃねえのかよ?だったら強く前を向けよ。
もし抱え込むのがキツいんだったらさ、俺たちは友達だろ?」
「全て言えとは言わねぇが、少しくらいは頼ってくれよ。見てらんねぇよ」
最後は食いしばるように言った。
櫛原は何も答えない。菅城は黙って立ち上がり、部屋を後にする。その間際にルーセラが菅城だけに聞こえるように聞いた。
「……逃げるの?」
嫌な事を聞いてくる子だ。彼女に振り向きもせず扉を閉め、菅城は舌打ちをする。答えを聞くつもりはない。答える姿を見たくもない。
今さら考えても仕方がないことを今になって思い出したのかは分からなかった。
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