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トーキョーのマルノウチ一角に高くそびえ立つオフィスビルがあった。まだ日は高く、丸の内を忙しなく行き交う人々は多い。しかし、その誰もがそのオフィスビルに入るどころか見向きもしなかった。
大都会の中に平然と建っていながらも普通とはズレた異様な存在。
結論を言ってしまえば、魔術の働きによって一定の人間以外は認識できないようになっている。
そして、そのビルを利用するモノは異様、異質なモノしかいない。
海外のマフィア、奴隷売買家、亡命者、闇ブローカー、便利屋……殆ど宿や秘密裏に行われる会議に使われるが、フロアによっては様々な取引所としても使われている。全て非合法なモノばかり。
「何でこんな所に私が来ないとならないヨ」
借りた会議室の中で齢14~15程の中国系の顔立ちをした少女がテーブルに腰掛け愚痴をこぼす。
いつも通りの“布教活動”と思って来てみればとんでも無い所に来たものだ。さっき一室の扉の隙間から覗いてみたら自分よりも年下のような男の子と女の子がステージでナイフを片手に殺し合っていた。そして、その光景を楽しみながら金を掛け合う富豪連中。危うくちびるところであった。女の子の意地で我慢したけど。
「日本って世界でも稀な平穏な国じゃないのかヨッ」
そう言いながら自分の前を通る男の尻を蹴る。
「りぃやん、痛いから止めてよ」
「うげっ、きもっ! その呼び方こそ止めるネ。何が『りぃやん』だ。何が『やん♪』、だ。
日本のオタク文化に汚されたイタ公メ」
「だってその方が可愛らしいもん」
「うひぃいいい、きもきもっ」
少女は思わず身を震わせ、ガシガシと二の腕をこする。
原因の目の前の日本が大好きなイタリア人(好きなのは主に日本アニメ、しかも偏ってる)は長い前髪をいじりながらまたぶつぶつ何かを言っている。ここに来てからずっとこんな調子だ。
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