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魔法のような大きな存在は人にとって手に負えない代物なのかもしれない、という不安が根強く残り、その塊となって現れたのが神の福音である。
原点回帰を求める彼らは、かつての原子力問題を彷彿させる。
「イギリスの件も考えたら、神の福音が正しいようにしか思えないという時もあったなあ」
菅城の言葉に櫛原は目を丸くする。
意外だった。彼が憧れる聖十字軍は魔法によるこの世界を支え、発展させる為の組織だ。神の福音とはある意味逆の立場である。
「ん、そんな目で見るなよ。そう思う時もあった、ってるだろ。昔の事昔の事。
今は神の福音を悪いとは思わねえが、良いとも思ってねぇ。
何でもかんでも悪い物を排除しようとする姿勢は嫌いなんだよ。
大体、魔法を無くしたら無くしたでどうすんだよって話だろ?魔法によって地球の資源は保ってる状態なんだ。魔法無しじゃ、地球はもう枯れちまう。
魔法が害だから無くすんじゃない。今後繰り返さない為に、そういった現状をどう打開するかを考える、新たな道を探す事が一番だろ?それからの話だ」
「お、おう……」
「ツッキー熱いねぇ」
何か語られてしまった。
もうニュースは違う内容に移っていて、神の福音の話も勉強会も既にお開きである。結局手つかずとなってしまった宿題を明日へと託し、三人は各々勝手にくつろぎはじめる。
その間に櫛原はもう一度神の福音について考える。魔法の在り方について、学生の自分が導ける答えは出ないのだが、
(究極魔法、人体実験……)
夏休み前の事が蘇る。 何度も夢にも出てきた許されない出来事。 しかし、自分にはどうする事も出来なかった出来事。魔法は何の為に有るのだろうか、という疑問と絡まっていく。菅城の言うように、
そうならない方法を見つけなければならない。
そして櫛原自身、これからどうすべきなのかを考えていかなければならない。
14歳の少年には早すぎる選択に彼は立たされているのだった。
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