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あちこちに目移りしながらも、楊鈴は中央広場にたどり着いた。改めて見上げると時計塔は迫力のあるものである。
しばらく目を奪われていた楊鈴は、ふと足元に違和感を覚える。視線を下に向け、アスファルトの地に触れた。
「何かここだけ新しくないカ? とって付けたような感じだシ」
タイル状の地を押したり、撫でたりを繰り返していた楊鈴の耳に微かな笑い声が聞こえた。ハッとして顔を上げると、赤鳳学園の制服を纏った少女がこちらを微笑まし気に見ている。
それはそれは、花でも摘んでいるのであれば可愛らしかったのだろうが、アスファルトに夢中な女の子なんて良く良く考えても変である。
「いやあ、ちょっとこの床に母国を思い出しましテ……」
慌てて立ち上がった楊鈴は、意味不明な事を言う。恥ずかしさで顔が熱くなるのが自分でもわかる。目の前の少女はそんな事を気にも留めず、楊鈴に近づいて来た。
「もしかしたら見学なの?」
「う、うん。そうなノ」
「良かったら私が案内してあげるなの!」
え、ちょっと勝手に。と楊鈴は断ろうとしたが、目の前の少女は大きく胸を張って自信気な顔を浮かべていた。もしかしたらお姉ちゃん気質か何かを持ち合わせているのかもしれない。
「ここの案内はお姉ちゃんに任せなさいなの!」
いや、もう完全にその気質だ。楊鈴としてはそこまで赤鳳学園に興味無いのだが、暇つぶしにはちょうど良いのかもしれない。それに、この学園は広い。ガイドがいた方が安心出来るモノだ。
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