『火伏せ』のおまじない

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(これが、後に幸いする事になるのだが…)。  その二階。東西にふた部屋ある東側の部屋を、寝室として使っていた。 「ウイ~、ヒック!」  夜中に尿意を(もよお)したボクは、まだ酔いが残った頭で、フラフラと部屋を出る。  階段の電灯をつけようと、踊り場に踏み出すと… 「ビチャ!」  足裏に、液体の感触が…。 『ん~。なんだ~、コレ?』  明かりをつけると、踊り場は一面水びたし。階段最上段まで、たれ落ちている。  それに、ただの水ではないようだ。ちょっとベタついており、オシッコみたいな感触だ。 (むしろ、まったく「水気(みずけ)」の無い場所。そちらの方だと解釈した方が、納得がいく)。  でも、酔ってはいたが、ボクがやったなどという事は、断じてない。ボクは、これからトイレに向かおうとしていたのだから。 (それにボクは、いくら飲んでも、記憶をなくすようなタイプの人間ではない。憶えていない時は、寝ている時だ)。 『ミーコかな?』  ボクには、同居人が一人。実年齢15歳になる、三毛のメス・ネコがいた。 (人間年齢に換算すればもういい年のはずだが、まだまだシャンとしていた)。 「ニヒルでアナーキーなナルシスト」を自認するボクには、他人に()びない、勝手気ままな「自由人」の方が、相性が好いのだ。 『まあいいや』  夜の夜中だ。それに酔っている。はっきり言って、その場で始末するなど、面倒臭かった。ボクはそのまま、ほったらかしで用を済ませ、再びベッドに入った。  でもそれが錯覚でない証拠に、翌朝も、生乾きのまま、ちゃんと残っていた。  その日は休みだったが、ちょっとした用事があり、人との待ち合わせの時間も迫っていたので、そのまま早くに家を出た。  そして、夜半に帰宅する頃には、すっかり乾いていたのだ。 (でも、後で思えば、拭き取らずに、そのまま自然乾燥させたのが良かったのだろう)。  その翌朝の事だった。 「ガラ・ガラ・ガラ…」  外が、朝から騒々しい。 「ガラ・ガラ・ガッシャン!」
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