『火伏せ』のおまじない

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 ダンプの荷台から、大きな玉砂利でも下ろしているような音だ。 「ガラ・ガラ・ガラ…」  家の前の道路は、一日中往来が激しい。道路工事や夜間工事も、たまにはある事だ。多少の(やかま)しさには、慣れっこになっていた。でも… 『朝っぱらから、何だよ?』  明るくはなっていたが、でも、まだ7時前。 (午前7時になると鳴り出す「盲導用信号機」。まだ「ピー! ピー!」「ピッポ! ピッポ!」と鳴り出す前だった…と思う)。  そして間もなく… 「髙山さん! 髙山さん!」  絶叫にも近い声でボクの名を呼び、激しくドアがノックされ、呼び鈴が打ち鳴らされる。隣りのおばさんの声だ。 「髙山さん! 髙山さん!」  その激しい口調で、「ピン」ときた。 「木造家屋が焼け落ちる時は、けたたましい轟音がする」  ボクはそんな事を…小学校の戦中派の先生から聞いたり、実際に目撃したりして…すでに知っていた。  あわてて飛び起き、急いで階下に向かう。玄関を開けると、予想通り、東隣りのおばさんだ。 「早くしないと、クルマが燃えちゃうよ!」  その声に(うなが)され、おもてを見ると…北側二軒先の家から、激しく火の手が上がっている。 「!」  古い木造倉庫を壊し、更地になったこちら側は、表通りの反対側。火元の家の、裏手にあたる。そこには、ボクの自家用車が駐車してあるのだが… 「あ~あ。朝っぱらから、メンドくせー!」  それがボクの第一声。  せっかくの連休・二日目の朝。「恐怖」や「驚き」より、そんな思いの方が強かった。 (モーター・スポーツなんてものをやっていると、事故や大怪我など、非日常的な出来事は日常茶飯事。それに、「死亡事故」なんてものを、幾度となくまぢかで目撃しながら育ってきたボクだ。それで免疫ができてしまったせいか、多少の事では驚かない、ある意味「鈍感」な人間になってしまったのだろう)。  出火先は、二軒北隣りの「豆腐屋」さん。 (なんでも、「油揚げ」を揚げていた鍋の油に、火が移ってしまったのだそうだ)。  もうすでに、北隣りの手前の家にまで、火が回り始めている。 (旧市街のこのあたり、ボクの家を含め、古い木造家屋が多い。取り壊してあった納屋が残っていたら、火の手は四方八方へと広がっていただろう)。 「フウ〜!」  ボクは溜め息を吐きながら…車を移動するため、キーを持って愛車に近づく。しかし… 『アッツ〜!』
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