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火炎の先端まで、まだ数メートルあったが、炎の熱気は凄まじい。後になって気づいた事だが、このとき熱に煽られた車体後部のプラスチック部品は、すべてケロイド状に溶けてしまった。
(車に「家財保険」は適用されない。「車両保険」に加入していなかったボクは、最低限の機能回復のみで、その車を使い続けた。さらに…「住宅ローン」を組むさいに、強制的に加入させられる「火災保険」は、アナタのためではない。ナゼなら…借金を完済するまでの「アナタの我が家」は、完全にアナタの物ではないからだ。火事によって喪失された分は、アナタの元には戻って来ない。だから…「家財保険を掛けておかなくては、手元には何も残らない」と、その後の保険請求の際、オジイチャンの頃からお世話になっていた保険屋さんの二代目が、そう教えてくれた)。
ともかく、車をおもての道路に移動したら、次はミーコだ。
(はっきり言って、火事のあの炎を前にしたら…映画やテレビ・ドラマのように、「中に飛び込む」なんて、ぜったい無理。近づく事だって、できやしない)。
幸い火の手は、まだ我が家まで達していない。
「ミーコ! ミーコ!」
ボクは靴のまま家の中に駆け込んで、ミーコを探す。
(こういった場合、「現金・通帳・思い出の品々」なんかより、やっぱり当然…「世間知らずの薄情者」のボクにも、そのくらいの理性や分別は、残っていたようだ)。
ミーコの寝場所の見当は、だいたいついている。
『きっと、あわてているだろう』
そう思っていたのだが…
「?」
なんと…寝室の西側の洋間。火元に一番近い、あの階段を上がった正面の部屋で…
『どうしたの?』
そんな涼しい顔をして、外の大騒ぎもどこ吹く風。ソファの上で、平然と寝ているじゃないか。
「ミーコ! 大変だよ!」
ボクは、ミーコを抱きかかえる。
「フギャ~!」
ミーコは…火事より…無理矢理つれ出され、車に押し込められた事に大騒ぎ。
(かつて、ドライブが大好きで、自分から車に乗り込むネコもいた。でもミーコは、小さい頃から車に乗せてみたが、けっきょく車には馴染まなかった)。
「フギャ~!」
声を荒げて、ミーコは御機嫌斜めだ。車外のただならぬ空気が、いっそう拍車をかける。
「イテッ!」
抱きかかえたボクの手を振りほどこうと、ツメを立ててもがいている。さらに…
『?』
そうこうしているうちに、運転席に座ってミーコを抱いていたボクの股間に、生暖かさが広がる。
『ゲ~! 「火攻め」の次は、「水攻め」かよ…』
またしても、「オシッコ攻撃」。
まわりの物々しい雰囲気もあってか、ミーコは「お漏らし」をしてしまったのだ。でも…
「仕方ね~」
怒るわけにもいかない。
そんな頃、消防車が続々と到着する。でも…向こうは向こうで、「水が来ない!」と叫んでいる。
「ミーちゃん、おウチ燃えちゃうかもしれないよ…」
我が家の向こう側から、モクモクと立ち昇る黒い煙。
状況は違うが、まさに夢の再現だ。
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