『悲しい思ひで』

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『悲しい思ひで』

 思い出す事がある。  まだ幼かった頃。たぶん幼稚園生くらいの、『昭和』四十年前後。  家族は、商売を営む祖父母と同居。我が家では、代々ネコを飼っていた。  ただ、目の前には大きな通り…旧「奥州街道」が走っていた。  大半のネコは、ここで車にはねられてしまったのだが…。  そんな我が家のネコの中に、生後・半年にも満たない小さな子ネコがいた。  季節は、たぶん春先の頃。  ナゼってその子ネコは、店の前の「陽だまり」の中で、まどろんでいたのだから…。  でも、不幸は突然襲って来る。  あの頃はまだ、野良犬がウロウロしていた時代。そんな野犬の中には、徒党を組んでいる連中もいた。  家のまん前で、あの子は囲まれてしまったのだ。  幼い自分の無力さ。  あわてて祖父を呼びに行ったが、時すでに遅し。  逆光の中、ボロ雑巾のようになった子ネコを、右手でつまんで戻って来る祖父のシルエット…。  それが、あの時の「悲しい記憶」だ。
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