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その時、ガサッと静寂な森の中にジルの背後から茂みの揺れる音がした。
一瞬にして察知した人の気配。
「誰っ!」
言うが早いか、ジルは反射的に脇に置いていた武器のダガーを抜くと、素早く振り返ってそれを向けた。
が、ジルの腕はそこに現れた人物にガシッと掴まれてしまった。
向けられたダガーに怯むこともなかっその人物は、
「俺だよ、俺」
少し怒ったような口調で言った。
スラリとした長身の男がジルを見下ろしている。
その男の顔を見ると、ジルはホッとしたようにダガーを革の鞘へと収めた。
「ローグ…。もう、びっりさせないでよ」
ローグと呼ばれたこの男の本名はローグ・A・アンダーソン。
ジルと同様にこの世界を旅する冒険者で、いつの頃からかジルと行動を共にしている。
言わばジルの相棒である。
歳はジルより三つ上の27歳。
背は高く、こちらも身体は無駄なく鍛えられていた。
「びっくりしたのはこっちだぜ。いきなり刃物向けるこたぁねぇだろ?」
無造作に伸びた焦げ茶色の髪を掻き分けながら彼は言った。
口調は怒っているようにも聞こえるが、目は笑っている。
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